水道民営化で暮らしはどうなる?水道料金が上がる!?メリット・デメリットを解説

鉄道、郵便など、もともと公営の事業が民営化した例は多いです。
最近でいうとガス事業への民間参入が記憶に新しいのではないでしょうか。

2018年11月、まさに今、水道の民営化が検討されていることをご存知ですか?
私たちの生活に密着した水道事業が、民営化されるかもしれないことを知っている人は意外と少ないものです。

水道事業が民営化する背景やメリット、デメリットを解説します。

現在はどういった体制なの?

2018年の今現在、水道事業の運営権は地方自治体が握っています。
水質管理や料金徴収が一部民間に委託されていることもありますが、
水道事業を担うのは公的機関に限られているのです。

その水道事業の運営権を民間企業に売却する仕組みになるかもしれないのが、水道事業民営化の大枠です。

どうして水道事業が民営化されるの?


長く公営状態の水道事業が民営化へと検討されているのはなぜなのでしょうか?
その理由は、水道事業の慢性的な赤字体質にあります。

慢性的な赤字体質

水は、面積あたりの使用人数が多いほど安くなります。
広い土地に人がまばらに点在していたり、
山間部などにポツンと家が建っているような地域では、どうしても水道水を作るコストは高くなりがちです。

日本はそういった高コストの地域が多く、水道事業の収益を圧迫しています。

日本の水道事業の赤字体質に拍車をかける要因はほかにもあります。

節水技術の発達による収益減

トイレや風呂、台所の節水技術向上により、1人あたりの水の使用量は劇的に減りました。
エコの観点からみれば歓迎される節水ですが、
多くの人に使われてこそコストが回収される水道事業の視点から見れば、
水の使用量減少は収益が減ることを意味するのです。

人口減による収益減

節水技術の向上に加え、日本はどんどん人口が減っていっています。
水を使う人そのものが減っているので、水道事業の収益が減るのは当然です。

水道管の老朽化

水道を支えるハード面でも問題があります。

日本の水道管が危ない!?


今私たちが使用している水道管は、ほとんどが高度経済成長期に埋設されたものです。
寿命が40年といわれる水道管が、60年近く使われているのが実情です。

本来であれば新しい水道管に刷新しなくてはいけませんが、
交換対象になる水道管は、
日本に埋設されている水道管の実に6分の1にあたる10万kmといわれています。

水道管のリニューアルにかかる年数は○○年!?

10万kmの水道管をすべて新しいものに替えるのに必要な年数は、試算で130年です。

130年!

寿命が40年の水道管を交換し始め、まだ半分も交換しないうちに、
最初に交換した水道管が交換時期(寿命)を迎える計算です。

果たしてすべての水道管を新しくするのは現実的な計画といえるのでしょうか?
しかし、寿命により水が噴出する事態が各地域で起こっている今、
水道管交換は待ったなしの状況といえます。

水の使用量減と、インフラ整備にかかる途方もないコスト。
これらの問題から、水道事業を民間に解放する流れが国で起こっているのです。

どうして水道料金は値上げされないのか

経営体質も、インフラも、悲鳴を上げている日本の水道事業。
水道料金を上げ、インフラ整備や収益黒字化を押し進めることはできないのでしょうか?

すぐに水道料金を上げられないのには、水道ならではのこんな理由があります。

ライフラインは値上げしづらい


水は、人間が生きていく上で一番欠かせないものです。
電気やガスは、使用料金を支払わなければ案外すぐに供給ストップされてしまいますが、
水に関しては長めの猶予期間があります。
それは水の供給をストップすることが人の生き死にに直結しているからです。

使用料の支払いに困る人が続出し、果ては死者が出てくるかもしれません。
おいそれと水道料金を上げられないのは、水がライフラインの中でも特に値上げしづらいものだからです。

有権者の顔色をうかがい、値上げに踏み切れない政治家たち

選挙カーから公約を叫ぶ政治家たち。
そのなかの一人が「水道料金の値上げ」を宣言していたら、どうでしょう?
その政治家に投票しようという有権者は減るかもしれませんね。

選挙に当選し、有権者からの支持を集め続けるため、
水道料金のアップを公言できない政治家は多いものです。
最終的に、水道事業の民営化や水道料金のアップが、国会で議論されることは少なくなります。

水道事業の民営化で起こりうる問題

もし水道事業が民営化された場合、具体的にどのような問題が起こりうるのでしょうか?
私たちの生活に密着した問題も多々あります。

①災害時のバックアップが遅れる

大きな災害に見舞われ、ライフラインが途絶えたとき、公的機関であればなるべく公平に復旧活動を行うものです。
(実際に復旧活動が行き届いているかどうかは別として)公的機関が水道事業を担う意味は大きいですよね。

しかし民間企業に運営が渡った場合、有事の際は「より多くの消費者がいる場所」から重点的に復旧活動に取りかかるのが普通です。

そうなると、過疎地などが後回しにされ、ライフラインの復旧が遅れ、二次被害につながる可能性が指摘されています。

②質のいい水の供給が危ぶまれる

水道の運営権が委譲されることで、現在の水質が維持されなくなる危険もあります。
運営する企業により、地域により、また、価格によって水質が変わるということですね。

実際、水道事業が民営化されたアメリカのとある州では、
水道水を飲んで鉛被害にあう人が続出し社会問題に発展したそうです。
水質の維持も大きな課題といえるでしょう。

③水道料金が上がる

水道料金は全国一律ではありません。
もともとの水質がよく、人口が集中しており、水の使用量が多い地域の水道料金は安めです。
しかしその反対、つまり人口がまばらで水の使用量が安定しないような場所では、驚くほど水道料金が高いのです。

例えば日本一水道料金の高い北海道夕張市では、20立方メートルあたりの水道代が6,841円と、驚きの高さです。
日本一水道代の安い兵庫県赤穂市が20立方メートルあたり853円であることを考えると、夕張市の水道代がどれほど高いのか想像しやすいですよね。

もし水道が民営化した日には、夕張市のように水供給のコストが高い地域の水道代が更に高くなる可能性は十分あります。
もちろん、今は比較的水道料金が安価な地域も例外ではありません。

④外資参入で市場が混乱する

水道事業がオープンな市場になれば、世界の水関連企業が日本の水道産業に参入してくることが予想されます。
以前から、日本の水資源は外資系企業に目をつけられている分野です。
日本の水道事業が牛耳られ、水道料金が高騰したり、大切なライフラインが外国の手に委ねられることも考えられます。

物騒な話になりますが、生物兵器などテロの脅威にさらされる心配もあります。
私たちの生活に欠かせない水を、日本人は守ることができるのでしょうか。

水道民営化のメリットは?

逆に、水道民営化によるメリットはあるのでしょうか。
他国の実績をもとにすると、水道事業の経営効率化や、資金調達のしやすさなどで一定の効果をあげた地域もあるようです。

水道事業の民営化は、本当に意味があるの?


ここまで水道民営化の概要をお伝えしてきました。
どちらかというと水道事業のネガティブな一面が強調されていますが、
民間企業にとって水道事業に参入するメリットは果たしてあるのでしょうか?

参入メリットは少ない

ご紹介したとおり、水道事業はコストのわりに低収益な事業モデルです。
国の水道事業の歴史の中で、水道管のメンテナンスについてデータが残っていない地域もあり、
見えないコストを考えると
水道管メンテナンスなどの管理コストは高まる一方、消費者(人口)は減り続けるわけですから、営利企業にとって魅力ある市場とはいえません。

条例(ガイドライン)の制定と、監視役が必要

もし水道民営化が実現されるならば、特に水道料金の価格制定についての条例整備は欠かせません。
価格決定や管理・運営は民間企業主導にならざるを得ないため、
不当に水道料金が高騰するのを避けたり、水質を維持するための監視機関も必要になってくるでしょう。

外国では再公営化の波

日本は水道民営化後進国です。
外国では一足早く水道民営化を押し進めた国がたくさんあるのですが、なかには再度、公営化した事例も多くあります。

水道事業、再公営化の事例

例えばフランス。水道民営化ののち、水道料金は従来の1.7倍になりました。
ボリビアでは、外資参入後に水道代が平均月収と同じくらいの金額になるなど問題になりました。日本でいえば水道代が30万円くらいになるようなイメージですね。
結局、国民からの不満が噴出したフランスもボリビアも、水道事業は再度公営に戻ったのです。

まとめ

水道民営化が各国で廃止になる中、時代と逆行するかのように検討されている日本の水道民営化。
日本の水道が置かれた状況を考えると、すぐに水道が民営化されるとは考えづらいものです。
しかし、民営化の可能性がゼロではない以上、私たちひとりひとりが知っておきたい課題でもあります。

大切なライフラインをどう扱っていくのか、慎重な議論が求められるトピックです。