改正水道法成立で私たちの暮らしはどうなる?概要と課題

1957年に制定された、上水道について定める水道法。
2018年12月、当法律が約60年ぶりに改正され、
水道事業は民営化の方向へ大きく舵を切るかたちとなりました。

水道事業は、インフラでありライフラインである大切な水を取り扱う事業です。
そもそも現在、日本の水道事業はどのような状態にあるのでしょうか。
もし水道が民営化されると、私たちの暮らしにはどのような影響があるのでしょうか。

通信、電力に続く国内最大規模の民営化事業として注目を集める、水道の民営化。
日本の水道のあり方を改めて見直す、大切な局面を迎えています。

改正水道法の概要

まずは、改正水道法の内容について触れていきます。

2018年12月改正、その目的

水道事業を管轄する厚生労働省が発表した、今回の法改正の目的は以下の通りです。

「人口減少に伴う水の需要の減少、水道施設の老朽化、
深刻化する人材不足等の水道の直面する課題に対応し、
水道の基盤強化を図るため、水道法を改正しました」

現在、水道事業は地方公共団体が運営しています。
水道事業にかかる費用は、市民から徴収される水道料金などによってまかなわれています。
しかし、慢性的な赤字経営が続いていることは、以前の記事でもお伝えした通りです。

全国1,355の上水道事業のうち、給水人口が5万人未満の小規模な事業者は、約7割を占めます。

さらに、高度経済成長期に整備された水道管は、各地で老朽化が進んでいます。
大阪府北部地震や北海道胆振東部地震では、
耐震性の低い水道管が多数破損し、
広範囲で断水が発生したため、ライフラインに甚大な影響が及びました。
このような背景に対処するため、約60年ぶりに水道法が改正されたといわれています。

水道法改正の概要

2018年12月の水道法改正のポイントは、大きく5つあります。

水道法改正のポイント
①関係者の責務の明確化
②広域連携の推進
③適切な資産管理の推進
④官民連携の推進
⑤指定給水装置工事事業者制度の改善

中でも重要なキーワードは2つ、「広域連携」「官民連携」です。

「広域連携」とは、現在、地方公共団体単位となっている水道事業者を、
いわば合併することで運営改善を目指すものです。

非常に薄利といわれる水道事業ですから、スケールが大きくなるほど経営効率は改善します。

「①関係者の責務の明確化」は、この「広域連携」のために、
役割分担や責任の所在などをあらかじめ明確にするよう定めたものです。

そしてもうひとつのキーワードが「官民連携」。
まさに水道事業の民営化に関わる重要なポイントです。

この点についての厚生労働省の説明は次の通り。
「地方公共団体が、水道事業者等としての位置付けを維持しつつ、
厚生労働大臣の許可を受けて、水道施設に関する公共施設等運営権を
民間事業者に設定できる仕組みを導入」

つまり、水道事業の責任は地方公共団体のまま、
運営は民間の事業者にまかせることができる、
ただしそれには厚生労働大臣の許可が必要になったということです。

まさにこれが、大きな議論を呼んでいるポイントですね。

論点は「水道民営化」

水道事業の民営化と聞いて、みなさんが最も心配することは何でしょうか。

「水道料金が上がるのではないか」、「水の質が下がることが不安」など、
生活に欠かせない水だからこそ、心配も多いのは当然です。

料金の高騰や品質の低下だけでなく、災害時の対応なども懸念されています。
民間事業者が対応することで、災害時の水道の復旧が遅くなるようでは、とても任せることはできません。

海外では一度民営化されたものの、運営がうまくいかず再度公営化された事例もあります。
フランスやボリビアなどでは料金が高騰し、再公営化となった事例は、以前の記事で紹介した通りです。

また、水道事業の運営に外資系企業が参入することで、さまざまな混乱を招く恐れも懸念されています。
ライフラインである水道事業のマネジメント技術は、大切な財産ともいえます。
それを外資系企業に任せることで、国内の担い手が減ることも心配されているのです。

「水道民営化」を掘り下げる

水道民営化について、さらに深掘りしていきましょう。

「コンセッション方式」とは

2018年12月に法改正がなされたことで、
水道事業の民営化が注目されていますが、
実は民間事業者に委託することはこれまでも可能でした。

2011年にPFI法改正により「コンセッション方式」が創設されていたのです。
この時点から今まで、実は給水責任を民間事業者に負わせるかたちであれば、
民間事業者が水道事業を運営することが認められていました。

しかし今回の法改正により、給水責任は地方公共団体に残すことが定められたのです。
いわば国や地方自治体の関与を強めたかたちになり、さらに厚生労働大臣の認可も必要とされました。

「コンセッション方式」の採用は、給水責任のある地方自治体の判断にゆだねられますが、
認可などが課せられたことで、安易な民営化はしづらくなったといえるでしょう。

第三者委託、DBOという手段も

現在、水道事業においては、官民連携の手法として3つの方式があります。

官民連携の3つの手法
①PFI(Private Finance Initiative)
②DBO(Design Build Operate)
③水道法に基づく第三者委託

ひとつめが「PFI(Private Finance Initiative)」です。
これは、民間事業者へ包括的に事業を委託し、資金調達も民間事業者が行うもの。

これに対し、資金調達は地方公共団体が行う委託が「DBO(Design Build Operate)」です。

3つめの「水道法に基づく第三者委託」は、技術的な業務などを水道法上の責任を含めて委託します。
例えば、北海道夕張市では、PFIで浄水施設の更新・維持管理、水道窓口業務を委託し、
約1億6,000万円の効果が出ています。

また、福島県会津若松市は、滝沢浄水場の更新整備事業などをDBOで委託し、
約4億3,900万円の経営改善を果たしました。
「水道法に基づく第三者委託」は全国191箇所、46の水道事業者で行われており、浄水場の運転管理などに多い方式です。

水道民営化、これからの課題は

本格的に動き始める水道民営化ですが、
どういった課題をはらんでいるのでしょうか?

ライフラインの維持は至上命題

人口減少社会といわれるこれから、ライフラインの運営は厳しさを増していくでしょう。
とはいえ、ライフラインである以上、安全性や誰もが水を買うことができることは至上命題です。

仮に民営化の方向へ進むとしても、
品質や価格などの条件は厳密に管理される必要があります。
海外で再公営化されるようになった事例の問題点などを洗い出し、
日本も同様のケースに陥らないための対策が必要だといえるでしょう。

コストダウンとの表裏一体

官民連携の方式であるDBOや第三者委託などは、
現在でも多くの実例があり、コストダウン効果も顕著に現れています。

今後もこのような事例を参考にしつつ、
民間のスキルやパワーをさらに活用する余地は多いといえるでしょう。

またそれと同時に地方公共団体は、現在の体制の中でさらにコストダウンができないか、
先例にとらわれずに努力を重ねる姿勢も大切ではないでしょうか。

しかし一方で、コストダウンを追い求めるあまり、
水の品質が低下したり、災害時の復旧などが後回しになったりなどは、あってはならない話。
水道事業の運営は、市議会の決議などを経て判断されます。

つまり、市民である私たちの意見も反映できるのです。
大切な水、子どもたちや孫の世代のことも考えて、しっかりと判断していきたいですね。

まとめ

日本の人口構造や、ライフスタイルの変化など、大きな変革がすでに起こっている昨今。
過去のシステムはそれに対応し、変化する必要性を求められています。

しかし、さまざまな制約がありなかなか難しいのが現状です。
水道事業の民営化は、まさにその板挟みともいえる問題ではないでしょうか。

ライフラインである水だからこそ、慎重な判断が求められます。
私たちの暮らしに直結する問題、これからの動向に注目していきたいと思います。