水道管の耐震化〜どんな工事?なんのためにやっているの?
年度末が近づくにつれ、道路工事などの公共工事が増えるとお気づきの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、具体的にどのような工事を実施しているかご存知ですか?
水道関係で多い工事のひとつは、水道管の耐震化工事です。
地震大国・日本にとっては、建物はもちろん、水道管も耐震工事が欠かせません。
今回は、この水道の耐震化工事に着目し、なぜ必要なのか、どのような工事なのか、
どれくらい進んでいるのかなど、詳しく見ていきたいと思います。
年度末の風物詩に対する見方が変わるかもしれません。
目次
水道施設の耐震化、なぜ必要?
生活に欠かせない水道ですが、日本における水道普及率は97%を超え、重要なライフラインのひとつです。
大切なインフラのため、万一の災害などの非常時でも断水することなく、もしくは断水時間を最短におさえる必要があります。
また、断水を起こさないことも重要ですが、水質の維持も同様に求められます。
地震による水道の被害について
水の供給がストップする断水は、身近なものではありませんが、地震災害などでは大規模な断水が発生することがあります。
例えば、2011年の東日本大震災では257万戸(約5か月の断水)、
2016年の熊本地震では約45万戸(約3か月半の断水)において断水が発生しました。
さらに、2019年に大きな被害をもたらした台風19号の影響では、14の都県で約17万戸が断水しました。
水道の被害内容としては、水道管の破裂や土砂の流入などがあります。
水道はインフラとして水源から各使用場所までネットワークのようにつながっているため、
ネットワークの上流が被害に遭うと下流への影響も大きくなることがあります。
また、上水道や下水道が破裂し、水や汚水が道路に噴き出してしまうと、道路が通行止めになったり、
汚れが広がることで二次被害が出たりすることも懸念されます。
このように、水道の被害は、影響を及ぼす範囲が広く、かつ重大な問題であるため、水道の耐震化工事は急務だといえるでしょう。
水道の耐震工事の現状
私たちの生活に欠かせない水道管の耐震工事ですが、どういった現状に置かれているのでしょうか。
基幹的な水道の40%にも満たない
国内の水道管の耐震化は、2016年度末で基幹的な水道の38.7%と、十分に進んでいるとはいいがたい状況です。
さらに、浄水場では27.9%、配水池では53.3%と、早期の耐震化工事を進める必要があります。
都道府県別に見てみると、耐震適合性のある水道管の割合は、神奈川県が最も高く69.8%、滋賀県が最も低く12.4%となっています。
ちなみに東京都は59.0%で、全国第3位という結果でした。
しかし全国平均は33.9%で、こちらも40%を下回っています。
以前の改正水道法成立の記事でもお伝えしたとおり、日本の水道事業は、各地域の地方公共団体が運営しています。
そのため、耐震化工事も地方公共団体が実施することになっていますが、財政状況の厳しい地方公共団体では、
工事がなかなか進捗しないケースもあり、問題視されています。
水道の耐震化、具体的にどんな工事?
耐震工事が十分に進んでいるとは言えない現状をご紹介しました。
この章では、水道管の耐震工事とは具体的にどんな内容なのかをまとめていきます。
老朽した水道管の更新だけじゃない
水道の耐震化工事といえば、どのような工事を思い浮かべるでしょうか?
地中の老朽化した水道管を新しいものに交換する更新工事などはイメージが湧きやすいかと思います。
確かに、サビや亀裂などが見られる水道管は、新しく耐震性のある耐震管に更新する必要があると感じますよね。
しかし、水道の耐震化工事はそれ以外にも多くの種類があるのです。
例えば地震によって、通常使用している浄水場や配水池から水が送れなくなることを想定し、隣接する自治体との連絡管を配備し、バックアップ体制を整備することもあります。
また、送水管や配水池の容量を大きくし、復旧作業用の水を確保することも耐震化工事の一部です。
さらに、水の流れる方向を変えたり止めたりする緊急遮断弁を新たに設置し、緊急時には、配水池から破損した管への水の流れを遮断できるような工事を行うこともあります。
このように、一口に水道管の耐震化工事と言っても、その内容は多岐に渡ります。
また交通状況によっては、昼間の工事ができない箇所があったり、工事個所に透析医療機関など断水のできない施設があったりと、多くの制約のもとで工事を進める必要があります。
こうした点から、水道の耐震化工事には膨大な費用と時間がかかるといわれているのです。
水道の耐震化の課題とは?
災害の多い日本において耐震化は必須ですが、様々な課題を抱えているものでもあります。
小規模な水道事業者で整備が進んでいない
水道の耐震化工事には、膨大な費用と時間がかかります。また人的なコストも伴うものです。
そのため、規模の小さい水道事業者、つまり地方公共団体においては、その進捗が遅れていることが最も大きな課題だといわれています。
地方公共団体が、耐震化工事を効果的かつ効率的に進めるために不可欠な「耐震化計画」ですら、約38%の公共団体しかその策定を行っていないという現状があります。
特に、中小規模の公共団体でその策定率の低さが顕著に表れています。
もちろん水道の耐震化工事にあたっては、「耐震化計画」の策定はスタートラインです。
計画の策定後には、住民や関係者へその計画を説明し、理解を得るプロセスが必要となります。
しかし、約6割以上の地方公共団体において、このスタートラインにすら立てていない状況があり、南海トラフ巨大地震などに対する耐震化が急務とされる現在、この問題に早急に対処する必要があります。
国土交通省、厚生労働省が整備を後押し
国はこの問題に対し、ビジョンや指針を示すことで後押しをしています。
国土交通省は、2014年に「国土強靭化アクションプラン2014」を策定しました。
このアクションプランにおいて、「起きてはならない最悪の事態」として「上水道等の長期間にわたる供給停止」が明記され、これを防ぐためのハード面・ソフト面、また自治体内外にわたるサポートの方針が示されました。
さらに、管路や配水池、浄水施設に加え、病院や避難所などの耐震化工事を優先的に進める考え方も明示されました。
このアクションプランにおいては、2022年までに「耐震化計画」の策定率を50%まで引き上げること」が目標とされました。
加えて、水道を所管する厚生労働省も、2013年に「新水道ビジョン」を策定しています。
この「新水道ビジョン」においては、より具体的に、中小規模の地方公共団体が「耐震化計画」を策定しやすいように技術的支援を行うことが盛り込まれました。
また、目安となる時間軸も打ち出され、優先度の高い工事を10年程度で実施し、最終的に50年後から100年先には水道施設全体の耐震化工事を、「完全に」完了することが求められています。
そして、「新水道ビジョン」の技術的支援として作成されたのが、2015年の「水道の耐震化計画等策定指針」です。
この指針において、「耐震化計画」には、耐震補強や設備更新などと盛り込んだ「耐震化対策」と、防災訓練や応急マニュアルを含む「応急対策」の二本柱で策定することが示されています。
この指針を参考に「耐震化計画」が策定され、水道の耐震化工事が少しでも早く進むよう期待したいと思います。
まとめ
私たちが日ごろ触れることの少ない、水道の耐震化工事。
年度末になるとよく見かける工事という認識の方も多いかと思います。
しかし、インフラである水道の耐震化は、非常時には人命に関わることもある、とても重要な工事です。
災害が起こっても被害を最小に抑え、かつ最短で復旧できる強靭な水道インフラを、1日でも早く実現することが求められています。
こうした強靭さ、いわゆるレジリエントというキーワードこそが、災害大国・日本の課題であるともいえるのではないでしょうか。
我々の世代はもちろん、子どもや孫の世代まで使い続けていく、大切な水道です。
時にはその耐震化工事の重要性に思いをはせてみましょう。