安全な暮らしを守るために〜治水工事とその課題〜

このたびの台風15号・19号により被災された方に
心よりお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。

近年、毎年のように押し寄せる自然災害に対し、各所から危険性が指摘されています。
一説には、このままのペースで温暖化が進むと、
今世紀末には世界の平均気温が現在より約3℃上がり、
「スーパー台風」と呼ばれる最大風速59m以上の台風が
日本付近を通る頻度が高まるとも予想されています。

私たちも日ごろから防災の意識を持つように心がけたいものですが、
今回は河川の防災ともいえる治水対策について考えます。

安全な暮らしを守るために欠かせない治水工事は
主に国や自治体が行うものですが、その課題とは一体何でしょうか?

そもそも治水事業とは?


治水(ちすい)は、普段から気にかけることが少ない言葉だと思います。
まずは治水とはどういったものなのかという点から振り返りましょう。

治水とは何か

「治水」とは、洪水などによる被害から人々や地域を守るために
川や海の整備を行うことを指します。

古くから土地を治める上での要とされており、
戦国武将や大名などにとっても最重要課題でした。

特に、武田信玄が釜無川につくった「信玄堤」は今でも有名です。
さらにさかのぼれば、世界四大文明がすべて川のそばで栄えたように、
治水のはじまりは文明のはじまりともいわれています。

日本は狭い国土の中に、山と川が多く存在しており、
西欧諸国に比べて急な川が多いことが特徴です。

明治時代になると、新政府が治水先進国だったオランダから治水技術者を招き、
近代的な治水技術が大きく進展しました。

しかし、オランダのような平野の多い国と日本の河川の状況は大きく異なっていたため、
オランダの技術者が日本の川を見て「これは川ではない。滝だ」とつぶやいたというエピソードは有名です。

近年は「都市型水害」の頻発

現代でも治水の重要性は変わらず、
特に都市ではこれまでなかったような新たな水害が発生しています。

例えば地下街、地下鉄など地下利用の進んだ東京などの都心では、
地上だけでなく地下の浸水対策も重要です。

平成13年には地下への浸水により人的被害も発生した苦い経験もあります。
このように多発する「都市型水害」に対し、さらなる整備が求められています。

「都市型水害」の原因としては大きく以下の3つが考えられています。

①地表がアスファルトなどに覆われたことにより保水機能の低下
②地下利用の高度化による被害の増大
③地球温暖化やヒートアイランド現象による集中豪雨の発生

です。

特に、③のヒートアイランド現象は都市に特有の現象です。

日本全体の100年間の気温上昇を見てみると、
全国平均が約1.5℃であるのに対し、
東京、大阪などの都心では約3℃倍の上昇になっています。

これは日本だけでなく、ニューヨークやパリなどでも同様の現象だそうです。
気温が1℃上がると、大気中の水蒸気が7%増加するため、
都市部は地方より集中豪雨の発生しやすい状況になっているといえるでしょう。

治水にはハード・ソフト両面の対策が必要

治水と一言で言っても、内容は様々です。
大きく分けてハード面の治水と、ソフト面の治水について考えて見ましょう。

ハード面の整備とは?

治水対策には、ハード面とソフト面の両方から総合的な対策が必要です。
ハード面とは、治水施設などを指し、
河川の整備や雨水を貯めるための調節池などの増設下水道の整備などが挙げられます。

例えば、千葉県から埼玉県にまたがって整備された延長約6.3kmの「首都圏外郭放水路」は、
世界最大規模の治水ハード整備でした。
「地下神殿」として一般公開しているため、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

利根川、江戸川、荒川の大河川に囲まれた中川・綾瀬川流域の洪水対策として開始された「首都圏外郭放水路」は、1993年に着工しました。
2006年に完成するまで長い時間をかけて整備されましたが、
この完成によって、周辺地域の浸水被害は大きく軽減されました。

ソフト面の対策とは?

では治水のソフト面の対策とは何でしょうか?
例えば、河川の周辺の緑地の保全や、
住宅などを高床式にリフォームするための自治体の補助金などが挙げられます。
地域の自治会やNPOなどが行う、河川敷の清掃活動に参加することも、
ソフト面から治水対策を行っているといえるでしょう。

今年、大きな被害をもたらした台風への防災策として注目された予報警報システムも、ソフト面の対策のひとつといえます。
日本人だけでなく、さまざまな国籍の人にとってわかりやすいシステムの整備も求められています。

自治体が行っているハザードマップの提供も対策のひとつです。
ハザードマップとは、河川が氾濫した際の被害を予測し、避難所などをわかりやすく示した地図のことです。

細かく市町村ごとに地図が作成されており、自宅から最寄りの避難所などをすぐに確認することができます。
浸水被害のハザードマップのほか、地震被害を予測したものなど、
自治体によっていろいろな種類のマップを配備していることもあります。
毎年4月ごろに全戸配布されるほか、自治体のホームページでも確認できるので、日ごろからチェックしておくとよいですね。

日本の治水工事の課題

日本に多く流れる河川のすべてについて、堤防などの治水工事ができれば理想的です。
しかし工事には莫大な費用がかかるため、どうしても優先順位がついてしまいます。
また、堤防を高くしたり範囲を広げたりする工事には時間もかかります。

そこで、国などが推進しているのが堤防などの治水設備を充実させるハード面と、
防災意識を高めるソフト面の両方からのアプローチです。
これまでの「災害は治水設備だけで防ぐ」という意識から、
「ハード面とソフト面の両方から減災する」という意識の変化が求められています。

温暖化への備えも、国土交通省が発表

地球を取り巻く環境は年々変化しており、
特に温暖化への対応は各国緊急の課題でもあります。

温暖化をはじめとする気候変動に備え、日本も動き始めています。

「気候変動を踏まえた計画のあり方」提言

国土交通省は10月18日、「気候変動を踏まえた計画のあり方」の提言を発表しました。
これは、近年の地球温暖化の影響を考慮して、
災害に強い国土をつくるための考え方の基礎となるものです。

この提言においては、地球全体の気温が2℃上昇するシナリオに沿って、
水災害対策や治水計画の考え方が見直しされました。
近年激甚化する水災害の被害状況を反映し、今回の見直しに踏み切ったとみられています。

これに対し有識者の間では、気温上昇2℃のシナリオでは楽観的であり、
約5℃上昇とする最悪のシナリオに基づいて計画を策定するべきといった厳しい意見もあがっています。
しかし、治水対策をはじめ災害の被害を軽減するためのアクションの第一歩ともとらえることができるのではないでしょうか。

「そなえるカルタ」「そなえるドリル」で楽しく防災を学ぼう

国レベルの取り組みは、一般の国民からすると違う世界の話に感じます。
そこで、楽しく防災について学べるアイディアをご紹介します。

三菱地所レジデンス「そなえるカルタ」「そなえるドリル」

三菱地所レジデンスは、震災の実体験を参考に、親子で楽しく学べる防災ツールを公開しています。
その名も「そなえるカルタ」「そなえるドリル」です。

東日本・熊本震災で実際に困ったことなどが、
「トイレ」「食料」「情報」といった切り口で、わかりやすくまとめられています。
集合住宅の居住者向けとされていますが、もちろん戸建て住宅にお住いの方にも参考になる内容ばかりです。

親子で一緒にカルタやドリルに取り組むことで、家族全員の防災意識が高まる効果も期待されますね。
三菱地所レジデンスのホームページから誰でもダウンロードできるようになっていますので、
ぜひ気になった方はチェックしてみてください。

まとめ

毎年のように増え続ける自然災害は、もはや他人ごとではなく、
自分自身にも起こりうるものだという認識をもつ必要があります。

国や自治体が進めるハード面・ソフト面からの対策に加えて、
個人でもできる災害対策の両輪で備える必要があるといえます。
まずはハザードマップを確認するなど、身近なところから始めてみませんか。

「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」提言
ザ・パークハウスの防災プログラム