【前編】水の危機〜日本人があまり知らない水をめぐる戦い〜
目次
「水の危機」を知っている?実は足りなくなっている水!
「水の危機」という言葉があります。
不足していく水をめぐって争いが起こる可能性はかなり前から指摘されています。
日本は水に恵まれている印象があり、なじみがないかもしれないですね。
世界規模で水が足りなくなったり、
汚水のせいで健康被害が広がったりする事態は今後も起こると言われてます。
実は日本も無関係ではないんです。
今後の大切な問題として考えてみましょう。
「水の危機」のあらまし
もしかしたら初めて聞いた方もいるかもしれない、
水の危機について説明します。
そもそも「水の危機」とは?
地球上には多くの水がありますが、
98%が海水で、淡水はわずかに2%程度。
しかも淡水の多くは氷河や氷山、または地下深くにある状態です。
そのため、人間が活用できる河川や湖などの水は、
地球全体の水のなかでは0.01%しかないと言われています。
水の危機とは、具体的には水不足と水質汚染です。
・水不足:今後も続く人口増加で使える水が足りなくなる
・水質汚染:汚染が広がり、安全に使える水が減る
世界的な規模で、満足に水を使えなくなる人が増加していきます。
そして限られた量の水をめぐって争いが起こったり、
水不足で食料が作れなくなったりする危機が
だんだんと深刻になってきているんです。
なぜ水が不足するのか?
では、どうして使える水は足りなくなっていくのでしょうか?
それにはいくつかの原因があります。
・人口の増加
・水の使用量の急増
・生活排水の急増による汚染
・水源になる森林や湖などを開発によって破壊
・世界規模の気候変動
順に詳しく見ていきましょう。
世界人口の増加に伴って、さらに食料が必要になります。
農作物をたくさん作ったり、工場で機械を動かしたりすることになりますよね。
結果として、飲み水だけでなく農業用・工業用の水も合わせて、使用量はどんどん増えています。
前から先進国での水の大量消費が続いていることに加えて、
発展途上国が近代化するにつれて水の使用量は増えてきました。
ユネスコによれば、世界の水の使用量は、
1950年から1995年までの間に約2.74倍にまで増加しています。
(「World Water Resources at the Beginning of the 21st Century (2003)」より)
人口が増えることで、生活排水も増加するため、水質が悪化することも大きな問題です。
大規模な開発で、水源になってくれる森林や湖を破壊したことも、
貴重な淡水を減らす原因になりました。
過度な開発は生態系にも悪影響を与え、絶滅した生き物もいます。
また異常気象によって気温の変化が起こっており、
今までとは雨の降りかたや降雨量が変わってきています。
日本でも、毎年「観測史上最大級」と呼ばれる水害が増えてきていますよね。
2019年台風19号がもたらした豪雨により、
東北〜関東地方が大きなダメージを受けたことは記憶に新しいです。
今まで雨が降っていたエリアで降らなくなったり、
逆に暴風雨で大量の降雨があったり、
気象の変化が水の利用にも支障をもたらしつつあるのです。
もともと利用できる淡水の量は少ないのに、
人口増加に伴って水の使用量は増えていきます。
しかも水を使用することで汚水を排出していくので、水資源の現状は深刻になっています。
水が足りなくなると何が起こるのか?
貴重な水資源の利用が脅かされていることがお分かりいただけたかと思います。
ここからは、すでに世界各地で起こっている水を巡る危機についてご紹介します。
すでに起こっている水の危機
実は世界的な規模では、すでにさまざまな形で水不足が起こっています。
水の不足は、単に飲料用・生活用の水の不足ばかりではなく、
農作物を育てることや工場を稼働させることにもかかわります。
つまり暮らし全般に影響が出てきます。
飲用水なのに不衛生な水しか手に入らないために病気にかかり、死亡する人は今でも多いんです。
2018年時点で、世界では20億人以上もの人が、
安全な水を飲むことができない状態にいます。
汚染された水を利用せざるを得ないために、
コレラなどの伝染病や下痢が広がり、苦しんでいる人達は多いです。
深刻な問題ですよね。
そもそも水へのアクセスが悪い状態に置かれている人たちも、多くいます。
生活に使う水を確保するために、水がある場所まで水汲みに出掛けるだけで、
往復に数時間かかるエリアもあります。水汲みは大変な重労働です。
水へのアクセスが悪いことは、女性の社会進出や子供の就学率にもかかわります。
発展途上国では、いまでも水汲みは女性や子供の仕事とされています。
もし水を容易に入手できるようになれば、女性たちは就労の機会が増えるし、
子供たちは学校に通う時間ができるのです。国の将来や経済にもかかわる問題ですね。
水の不足は農業にも大きな影響を及ぼします。
農作物を育てるには、膨大な量の水を使っています。
水を過剰に使ったために水源が枯渇したケースは多くあります。
アメリカやインドでは、農業用の地下水をくみ上げすぎたために
水が枯れて農業ができなくなり、農地が減少するようになりました。
中央アジアにあるアラル海では、
綿の栽培のために大規模な灌漑事業を行った結果、
だんだんと水の量が減って、ついに干上がってしまいました。
中国の大河である黄河でも、
1980年代には上流での取水が増えたために河口まで水が流れなくなる事態になりました。
飲料水の不足だけでなく工場の操業にも影響が出たといいます。
水不足は、農作物の生産停止や食料の供給の不安定さにつながるのです。
また食料不足が穀物価格の高騰を招くなど、経済にも影響が出てきます。
世界には、国際河川といって、国境をまたいで複数の国を流れる河川がいくつもありますよね。
国際河川での水の利用を巡って、衝突が何度も起こってきました。
これらの衝突は水紛争と言われており、
どの国が水をどれだけ使うのかばかりでなく、
上流地域で排出した汚染物質による水質の悪化など、複数の問題をはらんでいます。
例えばアメリカのメキシコの間ではコロラド川、
インドとパキスタンの間ではインダス川の水の使用をめぐって対立が起こったことがあります。
ほかの河川でも、水の取り合いが紛争の原因になることがあるんですよ。
島国日本では想像しづらい状況ですが、
それだけ水が人類にとって必要不可欠な要素であることが分かりますね。
今後も予想される水不足の激化
今後も世界の人口は増加する一方です。
2050年には約90億人に達すると言われています。
(ユネスコの調査による)
人口増加に伴って、水の使用量も増えてゆき、
2050年には2000年の1.5倍もの水を使うようになると予測されています。
今後は特に、アジア圏での水使用量の伸びが大きいと言われています。
このままだと「2030年に世界人口の47%が水不足になる」といった予想もあるんですよ。
かなり深刻です。
水資源は、降水量の変化や気温の上昇によって大きく影響を受けます。
温暖化や気候変動がもたらす影響は深刻です。
温暖化によって海面が上昇すると、海水は増える一方で、淡水は減ると言われています。
雨の降りかたや降水量が変わるなど、
地球規模での異常気象が続くことで、暴風雨や洪水、干ばつが起こりやすくなります。
地域によって降水量の差が激しくなり、乾燥地帯ではさらに降水量が減る予測もあるんです。
農業への打撃は大きく、今まで作れていた農作物を作れなくなったり、
砂漠化が進んだりする恐れがあります。
そうなると、食料の安定した生産や供給に困難が生じることになり、食料不足や飢餓のリスクが高くなります。
排水の増加や、豪雨による土砂の流出によって、水質の悪化も進むでしょう。
不衛生な水しか得られないエリアが広がれば、病気や健康被害の蔓延につながります。
複数の国が利用する国際河川での水の奪い合いの激化は、
国際紛争の理由のひとつになり、社会情勢が不安定になってしまうでしょう。
もともと緊張関係にあった国家間の関係が、水の使用をめぐって余計に悪化することがあります。
今後ますます水が必要なのに、足りない状況が加速していきそうですね。
このままでは、少なくなった水をめぐって取り合いになり、
対立や争いが激化することが指摘されています。
まとめ
水の危機という問題は、けっして他人事ではなく、今後も世界全体で深刻化していく問題なのです。
では、いったいどうやって解決していけばいいのでしょうか?
後編では、水の危機と日本とのかかわりや、水不足の解消にむけての動きや提案などをご紹介しますね。
毎日使う水について、考え直すきっかけにしてもらえると嬉しいです。