【後編】水の危機〜日本人があまり知らない水をめぐる戦い〜
目次
日本にも水の危機はやってくる!これからの日本と水の関係
前回の記事に引き続いて、水の危機について取り上げます。
危機と言われても、日本では水が豊富にあるように思えますね。
でも、水をめぐる問題は、日本でも意外と高いリスクがあるんですよ。
日本にとって予想される水の危機とは、どんな事態なのでしょうか?
そして、やってくるだろう水の危機に対して、日本に住む私たちができることはあるのでしょうか?
毎日使う水について、より深く考えてみましょう。
水ストレスとは?実は日本は水ストレスが高め!
水がどのくらい不足しているのかを示す基準に、水ストレスという言葉があります。
目安として「1人当たり年間使用可能水量が1700トンを下回り、日常生活に不便を感じる状態」にあれば、
水ストレスにさらされていると判断されます。
水を使いたくても使えずに、不便を感じる度合いと言っていいでしょう。
世界のなかで水ストレスが高いのは、
アフリカや中東、南アジア、米国西海岸などが挙げられます。
しかし、日本もそれなりに水ストレスが高いというデータがあります。
水が不足している実感はあまりないのに、どうしてでしょうか?
バーチャル・ウォーターとは?日本の水のカラクリ
日本は水ストレスが高いのにあまり水に不自由していないのは、
自国で使うかもしれなかった水の消費を、他国に肩代わりしてもらっているためです。
どういうことか、見ていきましょう。
水を使う割合では、農業用水の割合が一番高くなっています。
水全体の7割程度が、農業で利用されているんです。
ちなみに、生活用水は1割、工業用水が2割程度の割合となっています。
小麦や米など、食料を作るためには大量の水が必要になります。
牛や豚などの家畜を育てる場合にも、
飲み水だけでなく飼料のために膨大な水が必要です。
食料とは、いわば形を変えた水なのです。
日本は、海外から多くの食料を輸入していますよね。
食料を輸入することは、「食料に形を変えた他国の水を大量に輸入していること」でもあるのです。
食料を輸入することは同時に
「もし国内で同じくらいの食料を生産していたら必要だったはずの水」を、
他国に使ってもらっていることを意味します。
日本が輸入している食料から考えると、膨大な量の水を海外から輸入していることになります。
しかしこれらの水は目に見えるタイプの水ではないので、
「仮想水(バーチャル・ウォーター)」と言います。
日本はバーチャル・ウォーターを大量に輸入している国です。
実は、日本での年間の水の使用量と同程度の水を輸入している計算になるんですよ。
食料自給率が低いということは、それだけ海外の水に依存しているということです。
他国で水を消費してもらい、日本の水を使わずに済んでいるという恰好になります。
いまの日本が水不足に陥っていないのは、
困らないくらい海外から「食料に形を変えた水」を輸入しているためなのです。
前回の記事でも見たように、
水の不足は、食料の生産停止や供給の不安に直結する問題です。
世界の水不足や水質の悪化は、
これからの日本に食料の問題として迫ってくることが指摘されています。
日本にとっての水の問題点
日本はもともとの地形が急峻です。
梅雨や台風など、短い期間に大量の雨が降るという特徴もあります。
地形や気候の特徴から、雨の大部分がすぐ川から海に流れ出てしまうことが多いんです。
つまり、たくさんの雨が降っているけれど、水資源としてあまり活用されていない状態にあります。
もともとの特徴に加えて、最近は日本でも、異常気象による豪雨がありますよね。
河川の氾濫、堤防の決壊、土砂災害や洪水などの危険性が高まっています。
さまざまな事情で農業を行わなくなった田畑や里山は、
人の手が入らないことで崩壊していくことになります。
なにもない裸地よりも、田畑や森林のほうが雨水などをたっぷりと含んでくれるのですが、
これを森林などの水源涵養(かんよう)機能と言います。
日本のむかしながらの里山や農業の風景には、水源としての役割もあるんですね。
里山などが荒れてしまうと、水源涵養機能が低下して、水資源も減ってしまいます。
毎日出て行く生活排水による水質の汚染も大きな問題です。
そして、食料を輸入に頼りがちなので、バーチャル・ウォーターを大量に輸入しています。
繰り返しになりますが、
他国に農作物を作ってもらうことで水の消費を肩代わりしてもらっているため、
国内の水資源を消費せずに済んでいるのです。
そのわりには、日本では食料の廃棄率が高く、
社会問題化しています。
世界的に水不足が深刻化していけば、日本の水資源の使い方には批判がくることもありうるでしょう。
食料の自給率が低いと、もし海外の生産地で食料がつくれない事態に陥った場合、
今までのように食料を輸入できなくなる恐れがあります。
そうなると日本でも、食料不足が発生するかもしれません。
食料で世界の水とつながっている以上、他国の水不足は日本にも影響を与えます。
日本国内で水が足りなくなるというよりも、食料不足の形で危機がやってくる恐れがあります。
「水の危機」に向き合う
水資源を作り出す技術
世界的に水不足が予測されるなか、水を生み出す造水技術が注目されています。
造水には主に2つの方法があります。
・海の水の淡水化
・下水の再利用
の2つです。
海水の淡水化は、海水中の塩分を取り除いて淡水にする技術です。
資源となる海水は地球上に多くありますが、
海の近くでないと設備を作れない、コストがかかるといったデメリットがあります。
一度使った水を再利用することで、水を無駄なく使うことも進められています。
下水のなかの汚れや微生物などを取り除き、きれいな水にして供給する方法です。
慢性的に水不足のエリアで導入が進んでいます。
どちらも日本企業の技術が生かされているケースも多いんですよ。
水ストレスの高い国でも、水の使用の管理を適切に行うことで、国内の需要を賄っている例もあります。
水の危機への対応は、安定供給を可能にするシステムを整備して運用していくことがカギになります。
日本で個人ができることは発想の転換とエシカル消費
日本は水が豊富なイメージが強いので、残念ながら関心のない人が多いのが現状ですよね。
しかし、今後深刻になるだろう水の問題に向き合うには、
まず水資源には限りがあると知ることが必要です。
意識を変えると、水の使い方も変わります。
日常生活でできることには、
水を無駄に使わない、水をできるだけ汚さない工夫があります。
水の使用量を今までより減らす、
排水を汚さないように皿洗いの方法を見直すなど、
できる工夫はありますよ。
また、食料を作るためにはたくさんの水が必要です。
せっかくの食料が廃棄されていることもしばしば、問題になりますよね。
食べ物を無駄にしないことも、水を大切にすることになります。
また買い物をするときには、エシカル消費を意識するといいですね。
エシカルとは、「倫理的な」という意味です。
普段の買い物で、環境に配慮して作られた商品を選ぶようにするのです。
例えば「レインフォレスト・アライアンス認証商品」といって、
熱帯雨林の保護に配慮した農園で作られた商品には、カエルのマークが付いています。
買い物のときに「レインフォレスト・アライアンス認証商品」のような
環境に配慮した商品を選ぶことで、環境問題に気軽に取り組むことができますよ。
レインフォレスト・アライアンス
(このマーク、見たことある!と思う方もいらっしゃるかもしれませんね)
ひとりの消費者の行動は、たしかに小さな変化にすぎません。
でも水の危機に関心を持ったことで取り組む人が増えていけば、大きな変化につながるでしょう。
まとめ
水は無限にあるわけではなくて、貴重な資源のひとつです。
これから世界中で、もっと水の需要は増えていくでしょう。
世界各地で起こる水不足や水質悪化、異常気象は日本にも影響を与えていきます。
けっして他人事ではないのです。
まずは水の問題に関心をもって、できることから取り組むことで、
水の危機という大きなテーマに向き合っていきましょう。